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理性的表現クライシス

これまでの理性的でルールに従順な表現を捨てて、より本能的なものに切り替えることで、既存の表現スタイルを壊して革命を起こそうという試みです。

小説の赤ペン先生/入賞前祝い/カステラ一本食い

 さっそく書き上げた小説を印字して、一番発表時期の早い新人賞の応募会場に持ち込んだ。 

 すでに長蛇の列ができていたので、大人しく最後尾に加わる。この新人賞はその場で選考委員が添削してくれる仕組みになっているらしい。まるで赤ペン先生だ。

 待っている時間を少しでも小説の肥やしにしようと、列になっている人間たちの顔や服装、仕草、会場の様子なんかを観察しているうちに、ようやく自分の順番が回ってきた。

 返ってきた答案用紙は、何か所か些細なミスによる減点がなされていたものの82点というまずまずな点数だった。この分なら入賞できるだろうと確信して会場を後にした。
 あとは発表当日を待つばかり。

 その週末、少し気が早いけれど、入賞祝いに高校時代の友だちがバーベキューパーティーを開いてくれることになった。

 当日、会場となっている我が家の庭で準備をしていたら、チャッカマンから火花が散っているのを発見した。慌てて洗面所に持って行き、蛇口から直接水をかけた。
 ところが、チャッカマンは異常なほど発熱していて、水ごときでは冷める様子がない。今にも爆発しそうだった。

 はやくなんとかしなくてはまずい。そうだ、電池を抜いてしまえばいいのでは?

 思いついて、焦りでもつれる指で電池を引っこ抜いた。しかし、それでも火花は収まらなかった。

 最悪の時代を予測してあたふたしていると、母親がやって来て助けてくれた。どうやってあのチャッカマンの怒りを静めたのかは不明だけれど、それでようやく事態は沈着した。
 そこへちょうど弟が帰ってきた。

「カステラ買ってきたよ」

 私は正直、食べたくない気分だったけれど、要らないとは言いづらくて、「ありがとう。少しだけいただくね」と受け取った。

 そうしてほんの一口かじろうとしたはずなのに、気づいたら一瞬で丸ごとぜんぶ平らげてしまっていた。

 弟は呆れた顔をしていた。私はなぜ自分がそんな失態を犯してしまったのかわからなくて怖ろしかった。

 後日、私はお詫びに新しいカステラを駅前の和菓子屋さんまで買いに行ってきた。

 ちなみに、チャッカマン事件のせいで当月分の水道代のが高額になってしまったため、私が二千五百円を賄うことになった。