読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

理性的表現クライシス

これまでの理性的でルールに従順な表現を捨てて、より本能的なものに切り替えることで、既存の表現スタイルを壊して革命を起こそうという試みです。

正しい社内コミュニケーション〔水出しコーヒーはいかが?〕

断片集

 給湯室でカウンター背中を預けてにコーヒーを飲んでいると、正面にある扉のくもりガラスに細長い影が映った。ドアノブが回って、空いた隙間から姿を現わしたのは、いつ見ても血色の悪い桜井係長だった。

「あー、篠目さん。俺もコーヒー欲しい」

 今にも死にそうな顔で一言そう言うと、部屋の中央にあるテーブルセットに倒れこむように腰かける。

「お湯なくなっちゃったんで水出しでいいですか?」

 ちょうどわたしが入れた分でポットのお湯が切れてしまっていた。コーヒーを飲み終えたら沸かそうと思っていたのに、なんてタイミングの悪い人だろう。

「えっ、それ水出しできんの?」

「特にそういう仕様になっているわけじゃないですよ」

 ポットのフタを開けて、中に水を注ぎながら、内心「その質問を待ってました」と思いながら答えを返した。

「えっ」

 予想外の反応だったらしく、頭の切れる桜井係長にしては珍しく、そのまま黙りこんでしまった。

「やってみたらいけるかなって」

「ワイルドだな」

「やってみます?」

「いや、遠慮しとく」

 えー、と全力で不満をアピールしながら、わたしはしぶしぶポットの水を補給しにかかった。