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理性的表現クライシス

これまでの理性的でルールに従順な表現を捨てて、より本能的なものに切り替えることで、既存の表現スタイルを壊して革命を起こそうという試みです。

変身願望

 写真のプリントの受付時間が終了して、いよいよ最後の制服を脱ぎ捨てるときがやってきた。

 家の中なのに、父と母、それに弟までもが紙状になってカーテンのように私を取り囲んだ。さあ、安心して着替えなさい、とでも言わんばかりに。

「外に厄介な奴らが待ち構えているんだ」と、父。

「すっかり騙されたみたいね」と、母。

「そんなことない!」

 半ば絶叫に近い形で説得を試みたけれど、無駄のようなのであきらめて最上階へ向かった。

 そこにはタバコを吸っている二人組の男性がいた。無性に話しかけたい欲求に駆られたけれど、それによって何かが台無しになることを怖れて、やはりあきらめた。

 私の人生、あきらめてばかりだ。

 そのフロアには他にも何人かいた。その中で、ひときわ明るい雰囲気を放つモデルの子に目がいった。その子は、どうやら古い知り合いと再会を果たした様子だった。

 興味を覚えて近づこうとしたら、靴底で何かを踏みつける感触がした。視線を落とすと写真がローファーの下敷きになっていた。

 拾い上げてみると、地味すぎて逆に印象的なくらい顔の薄い女の子が写っていた。

「ああ、それ、昔のあたし」

 さっきのモデルの子が、何でもないことのようにそう言った。

 そのとき、私の中に強烈な電気信号が走った。

 ――この子がこんなに変われるなら、私も変わりたい!

 これまでそんなことを考えたことがなかったのに、いったいどこからそんな願望が生まれたのだろうかと自分で自分の感情を疑った。

 ところで、何をしに来たのだっけ? 

 ……そうだ、制服を仕舞いに来たのだ。もう二度と袖を通すことはないだろうから。
部屋の隅に移動してクローゼットを開けたけれど、ここに仕舞ったら何もかもきっと忘れてしまうだろうと思ったら、思い切ることができず、結局、両腕に制服を抱えたまま元の階に引き返した。