読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

理性的表現クライシス

これまでの理性的でルールに従順な表現を捨てて、より本能的なものに切り替えることで、既存の表現スタイルを壊して革命を起こそうという試みです。

正しい社内コミュニケーション〔桜井係長はドM〕

桜井係長の正面に腰かけて、わたしは二杯目のコーヒーを飲んでいた。彼の分を淹れるついでに、自分のも新しく作り直したのだ。 「……暇なのか?」 腕時計を確認しながら、桜井係長が訊ねた。 「言わずもがな、です」 経理課で補助的な仕事を担当しているわた…

正しい社内コミュニケーション〔水出しコーヒーはいかが?〕

給湯室でカウンター背中を預けてにコーヒーを飲んでいると、正面にある扉のくもりガラスに細長い影が映った。ドアノブが回って、空いた隙間から姿を現わしたのは、いつ見ても血色の悪い桜井係長だった。 「あー、篠目さん。俺もコーヒー欲しい」 今にも死に…

月になった恋人

近くの公園に半分を鉄板に覆われた球状の電灯がある。それは見る角度によって月のように満ち欠けする。 それと同じように、人間の頭も髪型によっては月に見えなくもないはずだ。 だからーー と、天井から吊るした透明のモビール糸に頭部だけをぶら下げた状態…

右目に龍神、背中に鱗

置行燈から、四角い明りが滲んでいる。女はその隣に膝をつき、私に背を向けたまま、白い長襦袢を手に取った。両方の袖に腕を通したあと、掛け衿を引き上げて、上半分を鱗に侵された生白い背中を隠した。膝元には、折り目正しく畳まれた矢絣の着物が置かれて…

嘘を吐きためたノート

並んでいる他の言葉よりも小さな文字で、死にたい、と書き込んでみたけれど、それはまるで行間に馴染まず、いつかのわたしのように浮いて見えた。消しゴムを使う気にもなれず、シャーペンで塗り潰そうとした。しかし、力を入れ過ぎたせいか、途中で芯が折れ…