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理性的表現クライシス

これまでの理性的でルールに従順な表現を捨てて、より本能的なものに切り替えることで、既存の表現スタイルを壊して革命を起こそうという試みです。

次に書き始めるときのストレスを軽減する執筆の中断方法

これまでに「小説の書き方」といった類の本を何冊か手にしたことがあるが、その中でひとつの作品を継続的に書き続けることに役立っているのは、”区切りのいいところではなく中途半端なところでやめておく”という方法だ。 区切りのいいところでやめてしまうと…

葬儀と慣れ

それから何年後かの夏。私は勤め先のビルの百階からエレベーターに乗り込んだ。この機械は少し変わっていて、中にシートベルト付の座席が並んでいる。そして、ジェットコースター並みの勢いで急降下するのだ。 こんなに飛ばして事故でも起こったら……。そう思…

小説の赤ペン先生/入賞前祝い/カステラ一本食い

さっそく書き上げた小説を印字して、一番発表時期の早い新人賞の応募会場に持ち込んだ。 すでに長蛇の列ができていたので、大人しく最後尾に加わる。この新人賞はその場で選考委員が添削してくれる仕組みになっているらしい。まるで赤ペン先生だ。 待ってい…

正しい社内コミュニケーション〔桜井係長はドM〕

桜井係長の正面に腰かけて、わたしは二杯目のコーヒーを飲んでいた。彼の分を淹れるついでに、自分のも新しく作り直したのだ。 「……暇なのか?」 腕時計を確認しながら、桜井係長が訊ねた。 「言わずもがな、です」 経理課で補助的な仕事を担当しているわた…

正しい社内コミュニケーション〔水出しコーヒーはいかが?〕

給湯室でカウンター背中を預けてにコーヒーを飲んでいると、正面にある扉のくもりガラスに細長い影が映った。ドアノブが回って、空いた隙間から姿を現わしたのは、いつ見ても血色の悪い桜井係長だった。 「あー、篠目さん。俺もコーヒー欲しい」 今にも死に…

月になった恋人

近くの公園に半分を鉄板に覆われた球状の電灯がある。それは見る角度によって月のように満ち欠けする。 それと同じように、人間の頭も髪型によっては月に見えなくもないはずだ。 だからーー と、天井から吊るした透明のモビール糸に頭部だけをぶら下げた状態…

夢心中

今だってまだ十分若者に分類される年齢だけど、それよりさらに若いころ、不治の病に侵されて悲劇の最期を遂げる自分をよく妄想していた。 妄想している分にはなんだか気分が良かったけれど、実際にそれが現実化した今となっては、恐怖や不安しか感じられない…

卒業後の夢

卒業後は作家になるつもりでいたので、周りの子たちのように、泣いたり吐いたりリスカしたり精神安定剤にすがったり開き直ったりしながら面接に奔走するようなことはしなかった。 代わりに、公園や美術館に出掛けたり、星空を眺めながら夜の散歩をしたり、自…

変身願望

写真のプリントの受付時間が終了して、いよいよ最後の制服を脱ぎ捨てるときがやってきた。 家の中なのに、父と母、それに弟までもが紙状になってカーテンのように私を取り囲んだ。さあ、安心して着替えなさい、とでも言わんばかりに。 「外に厄介な奴らが待…

卒業写真

卒業式が始まる前にいったん教室に集まることになっていたので、私も自分のクラスに向かった。 私の怖れに反して、昨夜あの化けものエビは戻ってこなかった。有名な怪談のメリーさんのように、電話をかけてくるようなことも。 それでも、まだ完全に安心する…

逃げだすエビ

最近、水槽でエビを飼い始めた。小さいのが数匹と、あと、こぶしほどもある真っ赤なのが一匹。ペットショップで買ってきたときは他のと同じくらいのサイズだったのに、いつのまにかこんなに肥大化してしまったのだ。 いったい、何を食べているのだろうか? …

右目に龍神、背中に鱗

置行燈から、四角い明りが滲んでいる。女はその隣に膝をつき、私に背を向けたまま、白い長襦袢を手に取った。両方の袖に腕を通したあと、掛け衿を引き上げて、上半分を鱗に侵された生白い背中を隠した。膝元には、折り目正しく畳まれた矢絣の着物が置かれて…

嘘を吐きためたノート

並んでいる他の言葉よりも小さな文字で、死にたい、と書き込んでみたけれど、それはまるで行間に馴染まず、いつかのわたしのように浮いて見えた。消しゴムを使う気にもなれず、シャーペンで塗り潰そうとした。しかし、力を入れ過ぎたせいか、途中で芯が折れ…

理性的表現クライシス

文章のルールを学んできて、それなりに正しい文が書けるようにはなったけれど、そのルールに沿っていないものは誤りであるという一部の世の中の風潮、あるいは自分自身からの束縛に最近わたしはうんざりしてきている。 たとえば、「ですます調」と「である調…

りんご飴の完全性を奪う瞬間

「仕事中に立ち寄った駅で、偶然屋台が出ていたんだ」 テーブルの前に落ちつくなり彼は、うれしそうに歯を見せて、手提げカバンから透明のビニール袋に包まれたりんご飴を取り出した。 「お祭りでもないのに?」 「うん。いつも出てるのかな」 袋を留めてい…

「穏当」を国に喩えるならばスイス

おん‐とう〔ヲンタウ〕【穏当】 [名・形動] 1 おだやかで無理がないこと。また、そのさま。「取り扱いに―を欠く」「―な処置」 2 すなおでおとなしいさま。 「何でも此のあたりに評判の美 (い) い女で、それで優しくって、―で、人柄で」〈鏡花・照葉狂言…

正しさの不確定性

あまつ‐さえ〔‐さへ〕【▽剰え】 [副]《「あまっさへ」の「っ」を、促音でなく読んでできた語》 別の物事や状況が、さらに加わるさま。多く、悪い事柄が重なるときに用いる。そのうえ。おまけに。「吹雪は止まず、―日も暮れてしまった」 (引用元:あまつさ…

小説の中に出てきた女が「飢(かつ)えて」いたもの

かつ・える〔かつゑる〕【▽餓える/▽飢える】 [動ア下一][文]かつ・う[ワ下二] 1 食べ物がなくて腹がへる。飢 (う) える。 「金があれば先ず―・えることはないから」〈福沢・福翁自伝〉 2 あるものに非常に欠乏を感じて、それをひどく欲しがる。「親…

「拍動性」の痛みと忘却本能

はく‐どう【×搏動/拍動】 [名](スル) 内臓器官の周期的な収縮運動。特に、心臓が律動的に収縮・弛緩 (しかん) し、脈を打つこと。 (引用元:はくどう【搏動/拍動】の意味 - goo国語辞書) 言子「久しぶりにけっこうひどい頭痛がきたから、それについて…

テーブルの上の国境線

テーブルの上には国境線が引かれていて、それはたまに消えたり薄くなったりする。線のこちら側が「菜食と無添加の国」なら、あちら側は「自由の国」だ。 私は基本、肉食をしないし調味料も使わない。だから、料理をするのは彼が泊まりにくる週末だけなのだけ…

「肉薄」という言葉は生々しくて苦手

このコーナーでは、私の好きな言葉や書物を読んでいて気になった言葉を、言子(ことこ)ちゃんと万葉(まんよう)くんの対話形式でお届けします。 変わった言葉やむずかしい言葉に限定せず、よく目にするけど自分が使いこなせていない言葉や、なかなか意味を…

言葉を必要としない夜

彼と付き合い始めたのは九月の終わりだったけれど、夏がいつまでも駄々をこねていたものだから、すでに夏、秋、冬と三つの季節を共有しているような気になっている。まだ、交際四か月が過ぎたばかりだというのに。 そうでなくとも、彼とは実際よりずっと長い…